最初に正直な告白をします。私は元HubSpot JapanのCSMで、3年半で200社以上の活用支援をしてきましたが、HubSpotのレポート作成は今でも難しいと感じます。カスタムレポートビルダーのUIは慣れが必要で、思った通りの集計にたどり着くまでに試行錯誤がいる。レポート機能だけで言えば、正直Salesforceの方が好きと言ってしまえるくらいです。
私ですらそうなのだから、HubSpotに慣れていない方にとって、レポート作成はかなり高いハードルなのではないかと思います。「データは溜まっているのに、見たい形で見られない」——これはHubSpot活用の相談で最も多い悩みのひとつです。
その状況が、AI連携で大きく変わりました。実際にやってみた話をします。
Claudeを繋いだだけで、こんなレポートができた
ClaudeにHubSpotを公式のコネクタで接続して(チャット画面から数クリックで繋がります)、デモポータルに対してこう依頼しました。
営業パイプラインの健全性レポートを作成して。ステージ別の件数・金額、金額帯の分布、都市別の商談集中度、高額なのに窓口が1人しかいないリスク案件の抽出、ライフサイクルステージ別の取引保有率、そして改善アクションの提案まで含めて。
数分後に出てきたのは:
- ステージ別・金額帯別・都市別の集計表
- 「金額3,000万円以上なのに関連コンタクトが1名しかいない取引が202件(高額案件の47%)」というリスクの発見
- グラフ付きのダッシュボード


レポートビルダーは一切触っていません。日本語で頼んだだけです。しかも「会社の従業員数が未入力なのでセグメント分析ができない。データ整備が先」という、データ品質の課題まで指摘してきました。
画面のUIに慣れる必要がなくなり、「どう見たいか」を言葉にできれば、誰でもレポートが作れる。これだけでも十分に価値があります。
ただし、弱点が2つある
手放しで褒めて終わりにはできません。この方法を業務に組み込もうとすると、明確な弱点が2つあります。
弱点①:毎回同じクエリになるとは限らない
AIは毎回、その場でクエリ(集計の条件)を組み立てます。たとえば「金額帯別に集計して」と頼んだとき、1,000万円ちょうどの取引を「1,000万円以上」に入れるか「1,000万円未満」に入れるかは、その日のAIの判断です。今日と来週で集計条件が微妙に変わる可能性が常にある。
一度きりの分析なら問題ありません。しかし毎週・毎日見る定点観測レポートでは致命的です。数字が変わったとき、それが「ビジネスの変化」なのか「AIの集計条件の揺れ」なのか、区別できなくなるからです。
弱点②:チーム・社内に共有しづらい
もうひとつ、実務では意外とこちらの方が効いてきます。生成されたグラフやダッシュボードは、自分のチャット画面の上に表示されるだけです。
では、これをチームに展開するにはどうするか。チャット画面をスクリーンショットして配る? さすがにやりづらいですよね。数値の根拠(どういう条件で集計したのか)もチャットの文脈の中にしかないので、受け取った側は検証のしようがありません。
つまりこの方法は、自分ひとりでデータを眺めて分析するには最適ですが、「チーム全員で同じデータを見る」には向いていないのです。
一番良いやり方:AIで設計→クエリ固定→Excel/スプレッドシートに自動更新
そこで行き着いたのが、この組み合わせです。
ステップ1:チャットと対話しながらレポートを設計する 「この切り口で見たい」「リスク案件の定義はこうしたい」——AIと会話しながら、欲しいレポートの形を固めます。ここはAIの独壇場で、試行錯誤が圧倒的に速い。
ステップ2:固まったクエリをPythonコードに固定する AIとの対話で確定した集計条件を、そのままコードに書き起こします(これもAIに頼めます)。境界値も定義も、コードに書いた瞬間から二度と変わりません。
ステップ3:スケジュール実行で、決まったExcel/スプレッドシートファイルを自動更新し続ける Macのスケジュール実行機能(launchd)で毎朝スクリプトを走らせ、決まった場所のExcel/スプレッドシートファイルに書き込み続けます。Excel/スプレッドシート側は数式とグラフを組んであるので、データ行が更新されれば集計もグラフも自動で追従します。




このやり方が優れているのは、さっきの弱点2つを同時にカバーできることです。
- クエリはコードに固定されているので、毎回必ず同じロジック(弱点①の解消)
- 成果物が共有フォルダのExcel/スプレッドシートファイルなので、チームの誰もがいつでも最新版を開ける。集計条件もコードとして残っているので根拠も示せる(弱点②の解消)
レポートの「設計」はAIと対話で、「実行」は固定されたコードで。この分担にすると、HubSpotのレポートビルダーに一度も触れることなく、毎朝同じロジックで更新され続ける共有レポートが手に入ります。地味に聞こえるかもしれませんが、私は革命的だと思っています。
応用すると、もっと面白いことになる
この仕組みは、さらに広げられます。
HubSpot以外のデータも、同じExcel/スプレッドシートにまとめられる。 データがHubSpotの外——たとえば別のツールやデータベース——に溜まっている場合でも、そのデータソースをClaudeに繋ぎ込めれば、同じ流れで集計して同じExcel/スプレッドシートにまとめることができます。つまり、複数のデータソースを横断した定期レポートが、この延長線上で作れてしまう。「これ、BIツールが要らなくなるのでは?」——ここがこの話のいちばん面白い点だと思っています。
定期的なメール配信もできる。 ClaudeにGmailを連携させれば、生成したレポートを従業員のメールに定期送信する、といったことも実現可能です。「毎朝8時、昨日の取引の変化サマリーがマネージャーの受信箱に届いている」という状態が作れます。
さらにその先:「数字」ではなく「やること」を配る
ここまで来ると、もう一段先が見えてきます。毎朝のレポートに、こんな内容を組み込むことができます。
- 昨日との差分まとめ(新規案件、ステージが動いた案件、成約・失注)
- 注目すべき差分(今週成約予定なのに活動が止まっている案件、など)
- 目標との乖離(月次目標に対する進捗と、このままのペースでの着地予測)
- 推奨されるアクション(乖離を埋めるために今日何をすべきか)
しかも、これをチームごと・担当者ごとに分けて配信できます。担当者のもとに毎朝、「あなたの案件で昨日動きがなかったのはこの3件。今週クローズ予定なのに活動ゼロなのはこれ」という自分専用のサマリーが届く、という状態です。
これが意味するのは、レポートの数字を見る、という行為自体の省略です。マネージャーが毎朝ダッシュボードを眺めて「この案件どうなってる?」と聞いて回る仕事の大部分が、配信に置き換わる。数字を見せるのではなく、「何をしないといけないか」をクリアにして各担当に渡すところまで自動化できるわけです。
ひとつだけ設計上のコツを挙げると、**「事実は毎日、示唆は刺さるときだけ」**です。差分や乖離は固定ロジックなので毎日配って外しませんが、アクション提案を毎日全員に配ると、精度が低い日が続いた時点で読まれなくなります。示唆は「今週成約予定で5日間活動なし」のような確度の高いトリガーに絞って出す方が、現場に定着します。
一番大事な示唆:「HubSpotにデータを入れる」の意味が変わった
ここまでの話を突き詰めると、最後に残る問いは「結局、データをどうしておけばいいのか」です。
以前なら答えはシンプルでした。「すべてのデータをHubSpotに入れましょう」。人間とレポート機能が読める形に、プロパティを整えて集約する。いわゆるSingle Source of Truth(信頼できる唯一の情報源)の考え方です。
しかしAIが読み手に加わった今、この答えは半分だけ古くなりました。AIは非構造化データも読めます。議事録の走り書きも、通話の文字起こしも、口語のメモも。つまり、データは必ずしもHubSpotの中に、きれいな形で入っていなくてもいい。
では何が条件になったのか。2つです。
条件①:AIから届く場所にあること。 どんなに価値あるデータでも、AIが到達できない場所にあれば存在しないのと同じです。逆に、HubSpotの外——スプレッドシートでも、議事録ツールでも——にあっても、繋ぎ込めれば分析の材料になります。
条件②:データ同士が「キー」で繋がっていること。 ここが見落とされがちな急所です。たとえばHubSpotに取引データ、スプレッドシートに商談メモ、別ツールに通話ログが散っているとします。AIはそれぞれを読めます。しかし「この通話はどの取引の話なのか」を機械的に突合できなければ、AIは推測で接合するしかない。その推測のズレが、分析結果全体を静かに汚染します。恐ろしいのは、データが繋がっていなくてもAIは「もっともらしい分析レポート」を書き上げてしまうことです。精度の低い分析ほど、自信ありげに見える。
だから、AI時代のデータ整備の原則はこうなります。
- 構造化できるデータ(金額・ステージ・日付)は、できる限りHubSpotに集約する。 理由は「AIが読めないから」ではありません。HubSpotの中では関連付けが仕組みとして維持され、突合キーが勝手に守られるからです
- どうしても集約できないデータは、キーを通した上で、AIが届く場所に置く。 スプレッドシートに取引IDの列を1本足す。録画のタイトルに案件名を入れる。そんな小さな運用が、分析精度を大きく左右します
- 「この項目の正はどこか」を宣言しておく。 スプレッドシートのヨミとHubSpotのステージが食い違ったとき、どちらを信じるのか。決めていなければ、AIがその日の判断で選びます
まとめれば——すべてをHubSpotに入れ直す必要は、もうありません。ただし、繋がっている必要はあります。そして、繋がり続ける設計が要ります。
アウトプットがAIで自由になった今、企業のデータ活用の成否を分けるのは、この地味な接続設計です。今後はこのあたりでも、面白いことを考えていきたいと思っています。
まとめ
- HubSpotのレポート作成は正直難しい。でもClaudeを繋げば、日本語で頼むだけで集計からExcel/スプレッドシート納品までできる
- ただし弱点が2つ。「クエリが毎回同じにならない」「チームに共有しづらい」
- 正解は「AIで設計 → コードでクエリ固定 → Excel/スプレッドシートに自動更新」。2つの弱点を同時に解消できる
- 応用すれば、BIツールの置き換え、そして「差分・目標乖離・推奨アクションを担当者ごとに毎朝配信」——数字を見る仕事そのものの省略まで見えてくる
Harekaでは、この「AIでレポートを設計し、固定化して自動運用に乗せる」ところまでの導入支援を行っています。自社のデータでどんなレポートが作れそうか知りたい方は、お気軽にご相談ください。
Hareka合同会社 岩間悠一(元HubSpot Japan CSM)