「kintoneとHubSpot、どっちがいいですか?」——この質問をいただくことがあります。どちらも国内で広く使われているツールですから、比較検討の候補に両方が挙がるのは自然なことです。
しかし実は、この2つは「どちらが優れているか」を比較する以前に、カテゴリが違うツールです。ここを押さえずに機能の丸バツ表を眺めても、正しい結論にはたどり着けません。
最初に筆者の立場を書いておきます。筆者はHubSpotの正規パートナーであり、HubSpot Japanでカスタマーサクセスマネージャー(CSM)として約4年間、200社以上の活用支援に携わってきました。つまりHubSpot側の人間です。だからこそ本記事では、ポジショントークにならないよう、kintoneの強みも含めて意識的にフェアに整理します。
結論を先に言えば、これは「どちらが優れているか」ではなく、「自社が何をしたいか」で答えが決まる話です。
まず結論:2つはカテゴリが違うツール
- kintoneは、ノーコードで業務アプリ(データベース)を構築するプラットフォームです。中身は白紙で、「何を管理するアプリを作るか」は自分たちで決めます。日報でも、備品管理でも、顧客管理でも、作ろうと思えば何でも作れます。
- HubSpotは、CRM(顧客管理システム)です。顧客(コンタクト)・会社・取引(商談)・チケット(問い合わせ)という、顧客管理のためのデータ構造が最初から組み込まれています。何を管理するかは、最初から「顧客との関係」に決まっています。
例えるなら、kintoneは「更地と建築キット」、HubSpotは「顧客管理用に設計済みの家」です。更地には何でも建てられますが、設計は自分の仕事になります。設計済みの家はすぐ住めますが、用途は決まっています。
「更地と家のどちらが優れているか」という問いに意味がないのと同じで、この2つを機能の数で比べても答えは出ません。見るべきは「自社は何を建てたいのか」です。
kintoneの本当の強み:「脱Excel」の救世主
kintoneの価値を一言で言えば、「Excel管理の崩壊を救うツール」です。そしてこれは、本当に優秀です。
多くの会社で、業務の管理はExcel(またはスプレッドシート)から始まります。最初はそれで十分なのですが、会社が成長するにつれて必ず限界が来ます。「誰かがファイルを開いていて編集できない」「いつの間にか数式が壊れている」「最新版がどれか分からない」——心当たりのある方は多いはずです。
kintoneは、この問題を次の4点で根本的に解決します。
- 複数人で同時に編集しても壊れない。 ファイルの取り合いや上書き事故から解放されます。
- レコード単位のアクセス権と変更履歴が残る。「誰がいつ何を変えたか」が追えるので、「消えた」「変わってる」という事故が起きません。
- リレーション(ルックアップ)でマスタ参照ができる。 顧客マスタを1か所に持ち、各アプリから参照する形にできるので、同じ情報をあちこちに二重入力する管理から抜け出せます。
- コメント・通知がデータに紐づく。「あの件どうなった?」というやり取りが、メールやチャットに散らばらず、該当データのすぐ横に残ります。
そして何より、自社の業務にぴったり合ったアプリを、エンジニアなしで現場の人が自分たちで作れる。この体験価値は、他に代えがたいものです。勤怠、備品管理、稟議、日報、案件の進捗共有——「うちの会社独自のやり方」をそのままデータベース化できる柔軟さは、kintoneの独壇場と言っていいでしょう。
社内業務のデジタル化、Excelで破綻しかけている管理業務の受け皿として、kintoneは素晴らしい選択肢です。ここは、HubSpotパートナーの筆者から見ても揺るがない評価です。
kintoneで「顧客管理」を自作するとどうなるか
では本題です。kintoneでCRM——つまり顧客管理・案件管理——を作るとどうなるでしょうか。
作れることは作れます。 実際、公式のアプリパック(テンプレート)を使えば、顧客リストと案件管理を組み合わせたSFA(営業支援)らしきものは、すぐに立ち上がります。小さな営業チームであれば、当面はこれで十分回るケースもあります。
ただし、始める前に理解しておくべきことがあります。
- データ設計は、すべて自分の仕事になります。 顧客と会社と案件をどう分けるか、担当者が変わったらどう引き継ぐか、名刺交換しただけの人と商談中の人をどう区別するか——CRMが最初から答えを持っているこうした設計を、一つひとつ自分たちで決めることになります。
- メールの一斉配信は標準ではできません。 見込み客へのメルマガやフォローメールを送るには、外部のメール配信サービスを契約して連携する必要があります。
- 公開Webフォームも標準では作れません。「資料請求フォームからの問い合わせを自動でデータベースに入れる」といった仕組みも、外部サービスで補うことになります。
- Webサイト訪問者の行動を追いかけて見込み客を見つける、といったマーケティング機能は、仕組み上、後付けでも実現が難しい領域です。
つまり、kintoneで顧客管理を作るというのは「家を建てる」ことであって、建てること自体は可能ですが、設計図は白紙から自分で描く、ということです。
2〜3年後に当たる「3つの壁」
kintoneで顧客管理を自作した会社が、運用2〜3年で典型的に直面する壁があります。これは筆者が実際のご相談の中で繰り返し目にしてきたパターンです。
- アプリの乱立。 kintoneは誰でもアプリを作れるのが強みですが、それは裏を返すと「部署ごと・担当者ごとに似たようなアプリが増えていく」ということでもあります。営業1課の顧客リスト、営業2課の顧客リスト、マーケの配信リスト——気づけば「どれが正しい顧客マスタなのか誰も分からない」状態になりがちです。
- マーケティング機能の不在。 メール配信はA社のサービス、フォームはB社、と外部サービスを継ぎ足していくうちに、月額費用が積み上がり、しかも顧客データが各サービスに分散していきます。「この人にメールを送ったか」「フォームから来たのは誰か」を突き合わせる作業が、地味に現場の時間を奪います。
- レポートの弱さ。 データは溜まっているのに、「今月の商談は先月より増えているのか」「どの経路から来た顧客が受注につながっているのか」を経営判断に使える形で取り出すのが難しい。集計のたびにデータを書き出してExcelで加工する——せっかく脱Excelしたのに、分析はExcelに戻ってしまうのです。
この時点での選択肢は3つです。(a)連携サービスをさらに契約して継ぎ接ぎを続ける、(b)顧客接点だけHubSpotなどのCRMを併用する、(c)顧客管理をCRMへ寄せる。
ここで1つ、お伝えしておきたいことがあります。kintoneはデータ構造がシンプルで、外部連携の仕組み(API)も扱いやすいため、CRMへのデータ移行は、複雑に作り込まれた他のシステムからの移行に比べて容易な部類に入ります。「kintoneで始めて、顧客管理が本格化したらCRMへ」という道筋は、現実的に取りやすいのです。これはkintoneで始めることのリスクを下げる、隠れた美点だと筆者は考えています。
視点:AI時代に「画面を作る」ことの意味
ここで少し、先の話をさせてください。
kintoneの最大の強みは「ノーコードで自分たちの画面(アプリ)を作れること」です。ところがAI時代には、この前提自体が変わり始めています。
筆者の理想を言えば、データベースにデータさえきちんと入っていれば、画面を作り込まなくても、チャットで話しかけるだけですべて操作できる——そんな世界です。そしてこれは、すでに現実になりつつあります。実際、HubSpotではAIとの連携により、管理画面を開かずにチャットからデータの読み書きや集計ができるようになってきています。「先月の商談一覧を出して」「この会社の担当者を変更して」が、画面操作なしで済む世界です。
誤解のないように言えば、これはkintoneの否定ではありません。kintoneも外部連携の仕組みが公開されているので、チャット型の操作を外部で構築して連携する道はあります。ただ、「現場が使う画面を作り込む」ことに価値を置くのか、「画面を作らなくても使える」方向に張るのか。ツール選定では、この流れも頭の片隅に置いておくとよいと思います。
どちらを選ぶべきか:判断基準
ここまでを踏まえて、判断基準を整理します。
- 社内業務のデジタル化(脱Excel)が主目的なら、kintone。 勤怠・備品管理・稟議・日報など、自社独自の業務をデータベース化する用途では、kintoneの右に出るものはなかなかありません。
- 顧客接点(マーケティング・営業・サポート)の管理が主目的なら、最初からCRMとして設計されたツールの方が早い。 顧客管理のデータ構造・メール配信・フォーム・レポートが標準で揃っているため、設計と継ぎ足しに使うはずだった時間を、本来の業務——顧客と向き合うこと——に使えます。
- 両方やりたい場合は、併用も十分に合理的です。 社内業務はkintone、顧客接点はCRM、という使い分けは実際に多くの会社で機能しています。「どちらか1つに寄せなければならない」という思い込みは不要です。
最後にもう一段だけ視点を上げると、大事なのは「データを溜めること」自体ではなく、溜めたデータが事業の成長につながるかどうかです。顧客データであれば、蓄積して終わりではなく、分析し、次の一手(メールを送る、営業がフォローする)につなげるところまでが一つの流れです。その流れが1つの仕組みの中で回るかどうか——ここを選定の物差しにすることをおすすめします。
まとめ
- kintoneとHubSpotはカテゴリが違うツールです。kintoneは「業務アプリを自作するプラットフォーム」、HubSpotは「CRM」。更地と設計済みの家を比べても答えは出ません。
- kintoneの「脱Excel」としての価値は本物です。社内業務のデジタル化なら非常に優秀で、現場が自分で作れる体験価値は他に代えがたいものがあります。
- 一方、顧客管理を自作すると、2〜3年後にアプリの乱立・マーケティング機能の不在・レポートの弱さという壁に当たりやすいのが実情です。
- 選定基準はシンプルに、「社内業務が主目的ならkintone、顧客接点が主目的ならCRM」。併用も合理的な選択肢です。
- kintoneからCRMへのデータ移行は比較的容易なので、「kintoneで始めて、本格化したらCRMへ」という段階的な移行も現実的です。
よくある質問(FAQ)
Q. kintoneとHubSpotはどちらがいい?
A. カテゴリが違うツールのため、単純比較はできません。kintoneは業務アプリを自作するプラットフォーム、HubSpotはCRMです。社内業務のデジタル化(脱Excel)が目的ならkintone、顧客接点(マーケティング・営業・サポート)の管理が目的ならHubSpotのようなCRMが向いています。
Q. kintoneでCRMは作れる?
A. 作れます。テンプレートを使えば営業支援らしきものはすぐ立ち上がります。ただし、顧客・会社・案件をどう分けて紐付けるかというデータ設計は自分で行う必要があり、メール配信・Webフォーム・行動トラッキングは外部サービスの継ぎ足しが必要になります。
Q. kintoneからHubSpotへの移行は大変?
A. kintoneはデータ構造がシンプルで外部連携の仕組みも扱いやすいため、複雑に作り込まれたシステムからの移行に比べると、データ移行は容易な部類に入ります。「kintoneで始めて、顧客管理が本格化したらCRMへ」という段階的な道筋は現実的です。
kintoneとCRMの使い分けに迷ったら
「うちの場合、kintoneのままでいいのか、CRMを入れるべきなのか」——ここまで読んでも判断に迷う場合は、Harekaにご相談ください。
HubSpot Japan CSMとして200社以上を支援した経験を持つ代表が、初回のご相談から導入・定着まで一貫して担当する体制で、貴社の状況に合わせた最適な形を一緒に考えます。kintoneからの移行のご相談はもちろん、「kintoneとCRMをどう使い分けるか」「そもそも移行すべきか」という段階のご相談も歓迎です。 結論が「今はkintoneのままで大丈夫です」になることも含めて、フェアにお答えします。
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