サポート業務のAI化を検討している責任者から、最近よく聞かれます。
「HubSpotのAIに、問い合わせ対応を任せられますか」
任せられます。ただし条件があります。AIが回答の根拠にするコンテンツを、会社側で用意することです。ここを用意できるかどうかで、導入の可否が決まります。
筆者はHubSpot JapanのカスタマーサクセスマネージャーとしてCRM導入200社以上を支援してきました。この記事では、支援先に説明してきた内容と、HubSpotの公式ドキュメントをもとに、カスタマーエージェントの位置づけ、必要な準備、向かない会社を整理します。操作手順ではなく、導入を判断するための記事です。
1. HubSpotのAIは2段階で考える
HubSpotのサポート領域のAIは、2段階に分けて考えると整理しやすくなります。
段階1:基本的なAI機能
1つ目は、雑な文章を綺麗にするレベルのAI機能です。担当者が要点だけを書いた返信文を、丁寧なビジネス文書に整えてくれる。これだけで、ビジネスライティングについて考えなくてよくなります。 サポート担当者の負担は確実に減ります。
段階2:カスタマーエージェント
2つ目が、カスタマーエージェントです。こちらはカスタマーサポートエージェントとして機能させる、高度な機能です。
メールなどの問い合わせチャネルに組み込み、届いた問い合わせにAIが回答します。そして重要なのは、何のコンテンツをもとに回答するかは、会社側で作るという点です。AIが勝手に正しい答えを知っているわけではありません。
この記事で扱うのは、2つ目のカスタマーエージェントです。
2. 回答の根拠にできるもの
公式ドキュメント上は、カスタマーエージェントが回答の根拠にできるコンテンツは次のとおりです。
- HubSpotで作成したコンテンツ(ナレッジベースの記事など)
- 外部でホストしているコンテンツ(URL。複数のURLをインポートできる)
既に自社サイトにFAQページやヘルプページがあるなら、URLとして取り込めます。マニュアルがPDFで整っているなら、それも根拠にできます。
3. 最大の制約:過去のやり取りは直接読ませられない
ここが、支援先で最も説明に時間を使う部分です。
ヘルプデスクの過去のやり取りを、直接読ませることはできません。
「過去数年分の問い合わせ履歴があるのだから、それを学習させればいい」と考えるのは自然です。しかし、メールの中身は、何が正しくて何が正しくないかが分かりません。 担当者が誤った案内をしたメールも、途中で仕様が変わった後の古い回答も、すべて混ざっています。これをそのまま根拠にすれば、AIは誤った回答も再現します。
だから、コンテンツ化して「これが正しい会社の情報です」という形にする必要があります。
現実的な運用はこうです。
- まず手持ちのFAQ・マニュアルでエージェントを動かす
- ヘルプデスクで、エージェントが回答できなかった問い合わせを拾う
- それをもとにナレッジベースの記事を作り、根拠に追加する
回答できなかったものから、ナレッジベースを育てていく。これが、カスタマーエージェントを実用レベルに持っていく道筋です。ヘルプデスクの仕組みについては、HubSpotヘルプデスクと受信トレイの違い|どちらを使うかにまとめています。
4. Brand VoiceとPersonality
回答の中身とは別に、どう話すかも設定できます。
- Brand Voice:どんなトーンで会話させるか
- Personality:どんなテンションで会話してほしいか
ここで注意点が1つあります。Brand Voiceはアカウントに1つだけ設定できます。 複数の事業を1つのHubSpotアカウントで運用している場合、どちらの事業のトーンに合わせるかを決める必要があります。法人向けの堅い事業と、個人向けの親しみやすい事業を並行している会社は、導入前にここを決めてください。
5. 手間がかかるのは、最初のセットアップだけ
ここが、この記事で最も伝えたい部分です。
カスタマーエージェントは、最初のセットアップだけが大変です。
- 回答の根拠となるコンテンツをちゃんと作る
- コンテンツを自動生成させる仕組みを作る
- エージェントをテストしてローンチする
この3つに手間がかかります。特に1つ目は、社内に散らばった知識を「正しい会社の情報」として書き起こす作業なので、サポート業務を理解している人の時間が必要です。
逆に言えば、セットアップさえ済めば、AIが回答します。 導入の判断は「毎月の運用負荷」ではなく、「最初のセットアップに人と時間を割けるか」で考えてください。
コストの考え方
HubSpotの案内では、AI関連のアクションはHubSpotクレジットを消費します。エージェントの利用量が増えればクレジットの消費も増えるため、問い合わせ件数と照らして見積もっておく必要があります。AIに任せる処理と、ルールやコードで厳密に処理すべきものの線引きは、Data Hub Proは必要か|カスタムコードの価値を再検証で整理しています。
6. 実際の事例:問い合わせのデータベース化が前提になる
カスタマーエージェントの前提は、問い合わせがHubSpotに記録されていることです。記録がなければ、「エージェントが回答できなかったもの」を拾うこともできません。
筆者が支援した企業では、宿泊・リゾート事業者向けの業務管理SaaS企業が、Gmailの共有アドレスで月約1,000件の問い合わせに対応していました。約2.5ヶ月・全6回でヘルプデスクを立ち上げ、問い合わせを初めてデータベース化しています。ここまで来て、初めてAIによる自動回答を検討する土台ができます。
→ HighriseからHubSpotへ移行――2.5ヶ月で営業・サポートを統一
7. 導入すべきケース・向かない会社
導入すべきケース
- ナレッジベースやFAQが既に整備されている:根拠となるコンテンツがあり、すぐに動かせる
- 同じ質問が繰り返し来ている:定型的な問い合わせの割合が高い
- セットアップに人と時間を割ける:コンテンツ整備とテストを担当できる人がいる
向かない会社
ナレッジベース・FAQが整備されていない会社は、今すぐの導入に向きません。根拠となるコンテンツがなければ、エージェントは正しく回答できません。整備するリソースもない場合は、まずコンテンツ整備から始めてください。
また、回答の正確性が法的責任に直結する業種では、AIの回答をそのまま送るのではなく、人の確認を挟む前提で設計します。契約条件、医療、金融商品の説明など、誤りが許されない領域です。
よくある質問(FAQ)
Q. HubSpotのカスタマーエージェントは何を根拠に回答しますか?
A. 公式ドキュメント上は、HubSpotで作成したコンテンツ、外部でホストしているコンテンツ(URL、複数インポート可)、PDFを根拠にできます。何を根拠にするかは会社側で用意します。
Q. 過去のメールのやり取りを学習させられますか?
A. ヘルプデスクの過去のやり取りを直接読ませることはできません。メールの中身は何が正しくて何が正しくないかが分からないため、コンテンツ化して「正しい会社の情報」にする必要があります。エージェントが回答できなかった問い合わせをもとにナレッジベースを作っていく運用が現実的です。
Q. カスタマーエージェントの話し方やトーンは設定できますか?
A. できます。Brand Voiceでどんなトーンで会話させるか、Personalityでどんなテンションで会話してほしいかを設定します。ただしBrand Voiceはアカウントに1つだけなので、複数事業がある場合はどちらに合わせるかを決める必要があります。
Q. カスタマーエージェントが向かない会社はどんな会社ですか?
A. ナレッジベース・FAQが整備されていない会社です。整備するリソースがない場合は、まずコンテンツ整備から始めてください。また、回答の正確性が法的責任に直結する業種では、人の確認を挟む前提で設計します。
まとめ:最初のセットアップに投資できるかどうか
判断軸は1行です。回答の根拠となるコンテンツを、最初に作り切れるかどうか。
カスタマーエージェントは、セットアップさえ済めばAIが回答します。手間は最初に集中します。過去のメールは読ませられないので、「正しい会社の情報」を書き起こす作業からは逃げられません。そこに人と時間を割けるなら、導入する価値があります。
サポート業務のAI化をご検討なら
「うちのFAQの整備状況で導入できるのか」「まず何から準備すべきか」——判断に迷う場合は、Harekaにご相談ください。
HubSpot Japan CSMとして200社以上を支援した経験を持つ代表が、初回のご相談から導入・定着まで一貫して担当する体制で、問い合わせの内容とコンテンツの整備状況に照らした導入の順番を一緒に決めます。
結論が「先にナレッジベースを整えましょう」になることも含めて、フェアにお答えします。お問い合わせはこちらからお気軽にどうぞ。