SaaS企業のHubSpot活用|MRR管理が難しい理由と設計

SaaS企業のHubSpot活用|MRR管理が難しい理由と設計

岩間悠一

岩間 悠一

元HubSpot Japan カスタマーサクセスマネージャー/Hareka合同会社 代表

200社以上のHubSpot導入を支援。現在はHubSpotコンサルタントとして独立。CRM導入から活用定着・AI連携まで一気通貫で支援しています。

SaaS企業の経営者やRevOps担当から、HubSpotの相談を受けると、話は必ずここに行き着きます。

「MRRもHubSpotで管理できますか」

答えは「できる。ただし工夫が必要」です。SaaS企業とHubSpotの相性は非常に良い。それでも、MRR管理だけは別物として設計しなければなりません。

筆者はHubSpot JapanのカスタマーサクセスマネージャーとしてCRM導入200社以上を支援してきました。この記事では、SaaS企業がHubSpotでMRRを管理しようとしたときの難所と、その設計の考え方を書きます。


1. SaaS企業とHubSpotは相性が良い

前提として、SaaS企業はHubSpotと非常に相性が良いです。

  • マーケティング:Webからのリード獲得、ナーチャリング、トライアル申込の管理
  • 営業:商談のパイプライン管理、見積、契約
  • サポート:オンボーディング、問い合わせ対応、解約防止

SaaSのビジネスは、この3つがすべてオンラインで、1人の顧客に対して継続的につながっています。マーケティング、営業、サポートのすべてをHubSpotで一元管理できるのは、SaaS企業にとって大きな価値です。

筆者がHubSpot Japan在籍時に支援した大手SaaSコンサルティング会社(約800名)では、放置されていたHubSpotを約1年半の伴走で再生し、営業とマーケティングがデータで回る組織にしています。

→ 放置されたHubSpotを再生――利用スコアを10→70へ


2. 最大の難所:MRRは「取引」の発想では管理できない

ここが、この記事の核です。

MRRを管理したいとなると、HubSpotでは難しく、工夫が必要です。 具体的には次の3つです。

  • 収益管理:いつ、いくらのMRRが立つのか
  • 解約管理:いつ、いくらのMRRが消えるのか
  • 契約更新の管理:いつ更新を迎え、更新後の金額はいくらか

これらをHubSpot上で設計するのは、難易度が高い領域です。

なぜ難しいのか

HubSpotの通常の機能は、「いつ、いくらの商談をクローズしたのか」という商談単位の管理です。取引(Deal)には金額とクローズ日があり、パイプラインのステージが進んで受注になる。レポートもこの前提で作られています。

一方、MRR管理は**「いつ、いくらMRRが立つのか」という発想**です。1つの契約から、毎月の売上が継続的に立ち上がります。12ヶ月契約なら12回分、月ごとに売上が発生します。

つまり、取引管理とはまったく別の管理を始める必要があります。 「受注した」という1回の出来事と、「毎月売上が立つ」という継続的な状態は、データの持ち方が根本的に違うからです。

取引と連動させるには、複雑な自動化が要る

いついくら売上が立つのかを、取引と連動させる。受注したら、その契約期間分の月次売上を生成する。これを実現するには、複雑な自動化を組むケースが多いです。


3. 解約時も同じ難しさがある

解約はさらに厄介です。

解約された際、案件単位で消せば済むわけではありません。 既に計上された過去の売上は残しつつ、予定されていたMRRの売上を、解約日以降の分だけ削除していく必要があります。

  • どの月までの売上を残し、どの月から消すか
  • 月の途中で解約された場合、その月をどう扱うか
  • 一部の機能だけ解約された(ダウングレード)場合、差額をどう反映するか

これを正しく処理するには、複雑なロジックを組む必要があります。


4. 推奨:Data Hub Professionalのカスタムコード

では、このロジックを何で組むか。

HubSpotにはAI機能もあり、エージェントに処理を任せることもできます。しかし、MRRは正確性が求められる部分です。月次売上の金額が、解約や更新のたびに少しでもずれれば、経営判断の前提が崩れます。

だから筆者は、Data Hub Professional(旧Operations Hub Professional)のカスタムコードを推奨します。日付の計算、金額の按分、解約日以降の売上の削除。毎回同じ式でブレなく処理すべき領域は、AIではなくコードで書くべきです。

AIエージェントとカスタムコードの線引き、そしてData Hub Professionalにいくら払う価値があるかは、Data Hub Proは必要か|カスタムコードの価値を再検証に詳しく書いています。サブスクの請求開始日・更新日・日割額の自動計算は、そこでも「コードで厳密計算すべき事例」として挙げています。


5. 実際の事例:月次売上を取引から独立させた

筆者が支援した企業では、アプリ開発企業(従業員約100名)がSalesforceからHubSpotへ移行する際、この問題に正面から向き合いました。

移行前は、月次の継続売上を取引のパイプライン上で管理する構造でした。しかし実機で検証した結果、この構造ではHubSpotのレポートで必要な集計ができないことが判明しました。

そこで、売上を専用のオブジェクトとして独立させる構造に転換しています。3万件超の既存の売上データを新しい構造へ移行し、失敗ゼロ・金額の欠落ゼロで、親となる取引との紐付けまで全件解決しました。さらに、見積の入力をトリガーに売上レコードを自動生成し、受注時には翌年の更新取引・更新見積・更新売上までを自動生成する仕組みを実装しています。

売上金額は、移行後にSalesforce側と完全一致することを検証済みです。

→ Salesforce移行で入力作業を12分の1に――AI活用のCRM再設計

この事例のように、MRR管理を含む移行は期間も延びます。Salesforceからの移行期間の目安は、SalesforceからHubSpotへ移行|費用・期間と進め方にまとめています。


6. MRRをHubSpotに載せるべきケース・見送るべきケース

HubSpotに載せるべきケース

  • 営業・CSが、顧客ごとのMRRを見ながら動きたい:アップセルや解約防止の判断に、顧客ごとの売上が要る
  • 売上予測を、商談の段階から見たい:見積の時点で、将来の月次売上を把握したい
  • MRRの管理が、今はスプレッドシートの手作業になっている

見送るべきケース

MRR・請求管理を、既に専用ツール(請求・サブスク管理SaaS)で回している場合です。

請求ツールで正しくMRRが管理できているなら、それをCRMに載せ替える必要はありません。HubSpotは営業・サポートに限定し、請求側は連携で済ませるのが合理的です。同じ数字を2つのツールで管理すると、どちらが正しいかという問題が必ず発生します。MRRの「正」は1箇所に置いてください。


よくある質問(FAQ)

Q. HubSpotでMRRは管理できますか?

A. 管理できますが、工夫が必要です。HubSpotの通常の機能は「いつ、いくらの商談をクローズしたか」という商談単位の管理で、MRRの「いつ、いくら売上が立つか」とは発想が違います。売上を専用のオブジェクトとして独立させ、取引と連動させる自動化を組むのが現実的です。

Q. HubSpotで解約管理はどう設計すればいいですか?

A. 案件単位で消すのではなく、予定されていたMRRの売上を解約日以降の分だけ削除していく設計にします。月途中の解約やダウングレードの扱いも含めて、ロジックを事前に決めておく必要があります。

Q. MRR管理にカスタムコードは必須ですか?

A. 推奨します。AI機能で処理を組むこともできますが、MRRは正確性が求められる領域です。日付の計算や金額の按分を毎回同じ式でブレなく処理するには、Data Hub Professionalのカスタムコードが適しています。

Q. 請求管理ツールとHubSpotはどう使い分ければいいですか?

A. 既に請求・サブスク管理ツールでMRRを正しく管理できているなら、HubSpotは営業・サポートに限定し、請求側は連携で済ませてください。MRRの「正」を1箇所に置くことが大切です。


まとめ:MRRは取引とは別物として設計する

判断軸は1行です。MRRを、取引とは別の管理として設計する覚悟があるかどうか。

SaaS企業とHubSpotの相性は非常に良い。ただしMRR・解約・更新は、商談単位の管理の延長では扱えません。正確性が求められる部分はコードで組み、既に請求ツールで回っているなら無理に載せ替えない。この線引きが、SaaS企業のHubSpot活用の成否を分けます。


SaaS企業のHubSpot活用をご検討なら

「MRRをHubSpotで管理すべきか」「請求ツールとどう分担すべきか」——判断に迷う場合は、Harekaにご相談ください。

HubSpot Japan CSMとして200社以上を支援した経験を持つ代表が、初回のご相談から導入・定着まで一貫して担当する体制で、自社の契約形態と請求の仕組みに照らしたMRR管理の設計を一緒に考えます。

結論が「MRRは請求ツールに任せましょう」になることも含めて、フェアにお答えします。お問い合わせはこちらからお気軽にどうぞ。

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