営業マネージャーから、こういう相談を受けます。
「週1回のパイプラインコールをやっているけれど、ただの報告会になっている」
メンバーが1件ずつ案件の状況を話し、マネージャーが「分かった、引き続きよろしく」と返す。1時間以上かかるのに、終わった後に何かが変わった感覚がない。メンバーからは「この時間、意味ありますか」という空気が出ている。
筆者はHubSpot JapanのCSMとして200社以上を支援してきました。この記事では、週1回のパイプラインコールの進め方と形骸化する典型パターン、そしてこの記事の核であるマネージャーのアドバイスの質の問題を書きます。
1. 進め方:まず差分を確認する
パイプラインコールで最初にやることは1つです。
現状の目標に対して、「現在のクローズドウォン」または「見込みクローズドウォン」との差分を確認する。
今期の目標がいくらで、すでに受注が決まっている金額がいくらか。見込みを含めるといくらになるか。その差がいくら足りないのか。ここから始めます。
案件の話から入らないことが重要です。差分が分からないまま案件を1件ずつ見ても、その案件がどれだけ重要なのかが判断できません。差分が見えていれば、「この差を埋めるために、どの案件をどう動かすか」という会話になります。
見込みの金額が正しく出るには、クローズ予定日・確度・金額が最新である必要があります。フォーキャストの精度については、フォーキャストが外れる理由|精度を上げる3つの必須項目にまとめています。
2. 差分を埋める2つのパターン
差分が分かったら、埋め方は2つのパターンに分かれます。
パターン1:手元にクローズできそうな案件がある
手元にクローズできそうな案件がある場合は、それをどうやってクローズに導くかをマネージャーがアドバイスします。
決裁者に会えているか。競合と比較されているなら、何で差別化するか。次のアクションは何で、いつまでにやるか。案件を前に進めるための具体的な打ち手を、メンバーと一緒に決めます。
パターン2:クローズできそうな案件がない
クローズできそうな案件がない場合は、新規案件の創出が必要になります。ここでマネージャーがやるべきことは、「なぜ作れないのか」を深掘りすることです。
アクション数が足りないのか。アクションはあるのに商談にならないのか。狙っているターゲットがずれているのか。原因によって打ち手はまったく変わります。「案件を作ってきて」と言うだけでは、何も変わりません。
原因を探るときに見るのが、コール数やミーティング数といった行動量の数字です。行動量をどこまで追うかは、営業の行動量をCRMでどこまで管理するか|空報を防ぐ線にまとめています。
| 状況 | マネージャーがやること |
|---|---|
| クローズできそうな案件がある | その案件をクローズに導く具体的なアドバイス |
| クローズできそうな案件がない | なぜ新規案件を作れないのかの深掘り |
3. 形骸化する典型パターン
パイプラインコールが形骸化する会社には、典型的なパターンがあります。
- 時間が長すぎる
- 全案件を漫然となぞる
この2つは、つながっています。差分の確認から入らず、全案件を1件ずつ報告させると、時間は必ず長くなります。そして、差分を埋めるのに関係ない案件にも同じ時間を使うことになります。
パイプラインコールで見るべきは、差分を埋めるために動かすべき案件と、案件が作れていないメンバーの原因です。日々の細かい案件の状況は、マネージャーがSFAで確認すれば足ります。SFAで分かることを、会議で聞き直さない。 これを守るだけで、時間は短くなります。
報告をSFAへの入力に置き換え、週1回のパイプラインコールに集約する設計は、営業がCRMに入力する理由を作る|日報と報告をなくす設計にまとめています。マネージャーが見る数字そのものは、営業マネージャーが毎週見る数字|4つで足りる理由も参考にしてください。
4. 組織的な課題:アドバイスが的外れだと信頼を失う
ここが、この記事で最も伝えたいことです。
パイプラインコールの価値は、マネージャーのアドバイスの質で決まります。そして、上司のアドバイスが的外れだと、現場からの信頼を失います。
メンバーは、困っている案件をどう前に進めるかのヒントを求めています。そこで現場の状況に合わないアドバイスが返ってくれば、「この人に相談しても意味がない」と判断されます。一度そう思われると、メンバーは本当に困っている案件を出さなくなります。パイプラインコールは、当たり障りのない報告だけの場になります。形骸化の根っこは、ここにあります。
マネージャー自身に経験がない場合
問題が大きくなるのは、マネージャー自身に、その商材での営業経験がない場合です。他部署からの異動や、別業界からの採用で、マネージャーが現場の商談を経験していないことは珍しくありません。
この場合にやるべきことは明確です。社内のトップ営業が、どうやってディールを前に進めているのか。具体的なアクションやポイントを事前にヒアリングして把握しておきます。
- 決裁者にはどのタイミングで、どうやって会っているか
- 競合と比較されたとき、何を伝えているか
- 検討が止まった案件を、どうやって動かしているか
トップ営業のやり方を具体的に知っていれば、困っているメンバーに対してポイントを突いた的確なアドバイスができます。マネージャー自身の経験がなくても、社内で実際に成果が出ているやり方を根拠にしてアドバイスできる状態を作る。これが、パイプラインコールを機能させる前提です。
避けるべきもの:精神論と感情的なアドバイス
逆に、避けるべきものがあります。
- 「もっと気合を入れよう」「もっと頑張ろう」といった精神論
- 怒るなどの感情的なアドバイス
一時的に効果があるケースもゼロではありません。しかし基本的に、メンバーのモチベーションを下げます。 最悪の場合は、退職につながります。逆効果になるケースが大半です。
精神論は、具体的なアドバイスができないときに出てきます。何をすればいいかを示せないから、「頑張れ」になる。だからこそ、トップ営業のやり方を事前に把握しておくことが重要なのです。
5. 実際の事例
筆者がHubSpot Japan在籍時に支援した大手SaaSコンサルティング会社(約800名)では、営業の成果がトッププレイヤーの個人技に依存していました。トッププレイヤーのやり方が共有される仕組みがなく、新人は手探りで営業するしかない状態です。
ここでトッププレイヤーが使っている「売れる文面」をメールテンプレートとして共有し、プレイブック機能でヒアリング項目や提案の型を整備しました。結果として、トッププレイヤーの動きを誰でも再現できる状態になり、HubSpotの利用スコアは10から70に向上しています。トップ営業のやり方を言語化しておくことは、マネージャーのアドバイスの根拠にもなります。
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6. やりすぎると壊れるケース:全案件を毎週なぞる
パイプラインコールを丁寧にやろうとして、全案件を毎週1件ずつ確認すると壊れます。
一見、抜け漏れのない丁寧な運用に見えます。しかし時間は長くなり、差分を埋めるのに関係ない案件の報告が大半を占めます。メンバーは準備に時間を取られ、マネージャーはアドバイスすべき案件に時間を割けなくなります。
見るのは、差分を埋めるために動かす案件と、案件が作れていない原因に絞ってください。それ以外の案件は、SFAで確認すれば足ります。
7. やるべきケース・やりすぎると壊れるケース
差分起点のパイプラインコールをやるべきケース
- パイプラインコールが、ただの報告会になっている
- 1回の会議が長く、終わった後に何も変わらない
- メンバーが本当に困っている案件を出してこない
やりすぎると壊れるケース
- 全案件を毎週1件ずつ報告させている
- SFAで分かることを、会議で聞き直している
- 具体的な打ち手がないまま、「頑張ろう」で締めている
よくある質問(FAQ)
Q. パイプラインコールは何分くらいが適切ですか?
A. 差分の確認と、差分を埋めるために動かす案件、案件が作れていない原因に絞れば、長時間は必要ありません。時間が長すぎることは形骸化の典型パターンです。全案件をなぞらず、SFAで分かることを会議で聞き直さないことで時間は短くなります。
Q. パイプラインコールでは全案件を見るべきですか?
A. 見る必要はありません。まず目標と、現在のクローズドウォンまたは見込みクローズドウォンとの差分を確認し、その差分を埋めるために動かす案件に絞ります。それ以外の案件は、マネージャーが日々SFAで確認すれば足ります。
Q. マネージャーに営業経験がない場合はどうすればいいですか?
A. 社内のトップ営業がどうやってディールを前に進めているのか、具体的なアクションやポイントを事前にヒアリングして把握しておきます。そのうえで、困っているメンバーに対してポイントを突いた的確なアドバイスができる状態を作ってください。的外れなアドバイスは、現場からの信頼を失います。
Q. メンバーが案件を作れていないとき、どう聞けばいいですか?
A. 「なぜ作れないのか」を深掘りします。アクション数が足りないのか、アクションはあるのに商談にならないのか、ターゲットがずれているのか。原因によって打ち手は変わります。「もっと頑張ろう」といった精神論や、怒るなどの感情的な対応は、モチベーションを下げ、逆効果になるケースが大半です。
まとめ:差分から入り、根拠のあるアドバイスで終える
判断軸は1行です。パイプラインコールは目標との差分から入り、トップ営業のやり方を根拠にした具体的なアドバイスで終えること。
形骸化の原因は、会議の形式よりも、アドバイスの質にあります。差分を確認し、動かす案件と作れない原因に絞る。そしてマネージャーは、社内で成果が出ているやり方を把握しておく。精神論ではなく具体的な打ち手を返せるマネージャーのもとで、パイプラインコールは機能します。
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