営業マネージャーや営業企画から、こういう相談を受けます。
「トップ営業のやり方をマニュアルにしたのに、他のメンバーの成果が上がらない」
トップ営業に時間をもらい、商談の進め方をヒアリングした。初回訪問で何を話すか、提案書をどう作るか、クロージングで何を確認するか。それをまとめてマニュアルにし、チームに共有した。メンバーはマニュアルどおりに動いている。しかし、成果はトップ営業に遠く及ばない。
筆者はHubSpot JapanのCSMとして200社以上を支援してきました。この記事では、トップ営業の型を組織に広げるときに、何をどう聞き、CRMのどこに落とし込むか、そして型を広げるうえで避けるべきことを書きます。
1. 型が広がらない理由:表面的な行動しか聞けていない
トップ営業の型を広げても成果が出ない理由は、多くの場合1つです。
表面的なことしか聞けておらず、表面的な真似しかできていない。
実際にトップ営業の動きを見ると、他のメンバーと割と似たようなことをしていることが多いものです。初回訪問をして、ヒアリングをして、提案をして、クロージングをする。行動の一覧だけを比べれば、大きな違いは見えません。
違いは、ディテールにあります。同じヒアリングでも、どの順番で聞くのか。相手の反応を見て、どこで深掘りし、どこで引くのか。同じ提案書でも、どのページに時間を使うのか。行動の名前は同じでも、中身が違います。
マニュアルに「初回訪問でヒアリングを行う」と書いても、このディテールは伝わりません。メンバーは同じ行動をなぞりますが、同じ成果にはなりません。
2. 何を聞くか:アクションの裏にある思考と背景
ここが、この記事で最も伝えたいことです。
トップ営業にヒアリングするとき、アクションそのものはもちろん聞きます。 しかしそれ以上に聞くべきなのは、次のことです。
- なぜそのアクションを取っているのか
- どういうふうに感じながらやっているのか
- 何を考えながらやっているのか
思考や背景まで、きちんと聞きます。
たとえば「決裁者との面談を早めに設定する」というアクションがあったとします。これだけでは表面です。聞くべきは、その先です。
- なぜ早めに設定するのか。後回しにすると何が起きた経験があるのか
- どのタイミングで「今、決裁者に会うべきだ」と判断しているのか
- 担当者に決裁者との面談を依頼するとき、どう切り出しているのか
- 面談で決裁者の反応が悪かったとき、何を考えて次の手を決めているのか
判断の基準と、その背景にある経験が分かれば、メンバーは状況が違っても同じ判断ができるようになります。行動をなぞるのではなく、判断の仕方を学ぶことができます。
聞き方のポイント
トップ営業本人は、自分のディテールを意識していないことがよくあります。当たり前にやっていることは、言葉になりにくいからです。「特別なことはしていない」と答えるトップ営業も少なくありません。
そこで、抽象的に「コツは何ですか」と聞くのではなく、直近の具体的な商談を1件取り上げて、時系列で振り返ってもらうのが有効です。その商談で、どの場面で何を考え、なぜその行動を選んだのか。具体的な場面に沿って聞くと、本人が意識していなかった判断が言葉になります。
聞き出した内容は、マネージャー自身のアドバイスの根拠にもなります。パイプラインコールでトップ営業のやり方を踏まえたアドバイスをする考え方は、週1回のパイプラインコールの回し方|形骸化させない設計にまとめています。
3. 聞き出した型をCRMのどこに落とすか
聞き出した型は、共有しただけでは定着しません。日々の業務の中で、自然に使われる場所に置きます。
プレイブックとテンプレート
まずは、プレイブックやテンプレートです。ヒアリングで聞くべき項目、提案の型、よく使うメールの文面。トップ営業が使っているものを、全員が使える形にします。HubSpotであれば、プレイブック機能やメールテンプレート機能で共有できます。
ステージプロパティの必須項目に組み込む
そのうえで大事なのが、ステージプロパティの必須項目などに組み込むことです。
トップ営業が「このステージに進む前に、必ずこれを確認している」という項目があれば、それを取引ステージを進める際の必須項目にします。たとえば「決裁者と面談済みか」「導入時期を確認したか」。「必ずこの項目を聞きましょう」という型が、CRMの操作そのものに組み込まれます。
マニュアルは読まれなくなりますが、ステージを進めるたびに求められる項目は、必ず目に入ります。型が、意識しなくても守られる状態になります。ステージプロパティの使い方は、商談ステージの設計|主観をなくす条件と増やしすぎない線にまとめています。
| 落とし込む場所 | 何を入れるか |
|---|---|
| プレイブック | ヒアリング項目、提案の型 |
| メールテンプレート | トップ営業が使っている文面 |
| ステージプロパティの必須項目 | 次のステージに進む前に必ず確認すべきこと |
4. トップ営業が協力しないとき:評価の構造を先に作る
型を広げようとすると、トップ営業本人が言語化や共有に協力しないという問題にぶつかることがあります。
トップ営業にとって、自分のやり方は成果の源泉です。個人の成績で評価される仕組みの中では、時間を使って他のメンバーに教えることに、本人のメリットがありません。むしろ、自分の優位性を手放すことになります。協力しないのは、本人の性格の問題ではなく、評価の構造の問題です。
だからこそ、チーム全体の成績が本人の成績にも反映されるような評価やインセンティブの構造を、事前にきちんと設計しておく必要があります。チームの成果が上がれば自分の評価も上がる。そういう構造があれば、型を共有することが本人の利益になります。
評価の設計は、型の共有を頼む前にやっておくことが重要です。協力を頼んでから評価を変えると、「後付けで協力させられた」と受け取られます。入力や共有の行動に見返りを作る考え方は、営業がCRMに入力する理由を作る|日報と報告をなくす設計にもまとめています。
5. 実際の事例
筆者がHubSpot Japan在籍時に支援した大手SaaSコンサルティング会社(約800名)では、営業の成果がトッププレイヤーの個人技に依存していました。トッププレイヤーのやり方が共有される仕組みがなく、新人は手探りで営業するしかない状態です。
ここで、トッププレイヤーが使っている「売れる文面」をメールテンプレートとして共有し、プレイブック機能でヒアリング項目や提案の型を整備しました。結果として、トッププレイヤーの動きを誰でも再現できる状態になり、新人でも自信を持って営業できるようになっています。月1回・約1年半の伴走で、HubSpotの利用スコアは10から70に向上しました。
→ 放置されたHubSpotを再生――利用スコアを10→70へ
6. やりすぎると壊れるケース:型を強制しすぎる
型を広げることに熱心になりすぎて、型を強制しすぎると壊れます。
型を細部まで決め、全員に同じやり方を求める。一見、組織として再現性が高まるように見えます。しかし実際には、担当者一人ひとりの良さや個性をなくすことにつながります。
営業には、それぞれの性格の違いがあります。説得が強い人もいれば、ヒアリングが強い人もいます。 説得が得意な人に、ヒアリング中心のトップ営業のやり方をそのまま押し付ければ、その人の強みは消えます。そして、本来のやり方より成果が落ちることもあります。
型は、全員を同じ営業にするためのものではありません。一人ひとりの良さをキープしながら、ある程度の型を持たせる。 押さえるべき最低限の確認事項はステージの必須項目で揃え、そこから先の進め方は本人の強みに任せる。この線引きが、型を組織に定着させるうえで重要です。
7. やるべきケース・やりすぎると壊れるケース
型を広げるべきケース
- 成果がトップ営業の個人技に依存している
- 新人が手探りで営業している
- マニュアルはあるが、成果につながっていない
やりすぎると壊れるケース
- トップ営業のやり方を、細部まで全員に強制している
- 行動の一覧だけをマニュアルにして、思考や背景を聞いていない
- 評価の構造を変えずに、トップ営業に協力だけを求めている
よくある質問(FAQ)
Q. トップ営業には何をヒアリングすればいいですか?
A. アクションそのものに加えて、なぜそのアクションを取っているのか、どう感じながらやっているのか、何を考えながらやっているのかという思考や背景まで聞きます。トップ営業は他のメンバーと似たことをしていることが多く、違いはディテールにあります。直近の具体的な商談を1件取り上げ、時系列で振り返ってもらうと言葉にしやすくなります。
Q. トップ営業の型はCRMのどこに落とし込めばいいですか?
A. プレイブックやテンプレートに加えて、ステージプロパティの必須項目に組み込みます。トップ営業が次のステージに進む前に必ず確認していることを必須項目にすれば、「必ずこの項目を聞く」という型がCRMの操作そのものに組み込まれます。
Q. トップ営業が型の共有に協力してくれない場合はどうすればいいですか?
A. チーム全体の成績が本人の成績にも反映されるような評価やインセンティブの構造を、事前に設計しておきます。個人の成績だけで評価される仕組みの中では、型を共有することに本人のメリットがありません。評価の設計は、協力を頼む前にやっておくことが重要です。
Q. 型を広げたのに成果が出ないのはなぜですか?
A. 表面的なことしか聞けておらず、表面的な真似しかできていないからです。行動の一覧だけでは、トップ営業のディテールは伝わりません。行動の裏にある判断の基準と背景まで聞き出してください。また、型を強制しすぎて本人の強みを消していないかも確認してください。
まとめ:行動より思考を聞き、型は最低限に
判断軸は1行です。トップ営業からは行動の裏にある思考まで聞き出し、型は最低限の確認事項としてCRMに組み込み、その先は一人ひとりの強みに任せること。
型が広がらないのは、表面しか聞けていないからです。思考と背景まで聞き、ステージの必須項目に落とし込み、協力できる評価の構造を先に作る。そして型を強制しすぎず、個性を残す。これが、トップ営業のやり方を組織の力に変える方法です。
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