Airtableで顧客や案件を管理している会社から、HubSpotへの移行相談を受けると、最初にこう聞かれます。
「Airtableのデータ、そのままHubSpotに入りますか」
答えは「そのままでは入らない」です。データの量が問題なのではありません。Airtableの構造が、HubSpotの構造と根本的に違うことが問題です。
筆者はHubSpot JapanのカスタマーサクセスマネージャーとしてCRM導入200社以上を支援してきました。この記事では、AirtableからHubSpotへの移行で最初に向き合うべき難所と、その整理の仕方、そしてAirtableのままでいい会社の判断基準を書きます。
1. 最大の難所:Airtableには「オブジェクト」がない
AirtableからHubSpotへの移行で、最も時間をかけるべきなのはここです。
Airtable自体は、オブジェクト構成になっていません。 Excelライクに、比較的自由に作り込めてしまうツールです。テーブルを増やすのも、列を足すのも、別テーブルへのリンクを張るのも自由です。この自由さこそがAirtableの強みであり、現場が使い続けてきた理由です。
一方のHubSpotは、最初から決まったオブジェクトを持っています。
- コンタクト:人
- 会社:取引先企業
- 取引:商談・案件
- チケット:問い合わせ・サポート案件
HubSpotのレポート、自動化、メール連携、パイプライン管理は、すべてこのオブジェクトと、オブジェクト同士の関連付けを前提に動きます。
つまり移行とは、自由に作られたAirtableのデータを、HubSpotの決まった型に合わせて組み直す作業です。ここを飛ばしてCSVをそのまま取り込むと、1レコードに会社と人と案件の情報が混在したまま入り、HubSpotの機能がほとんど効かない状態になります。
2. 整理の手順:まず「今どうなっているか」を把握する
では、どう整理するのか。順番は明確です。
手順1:Airtableの現在の構成を棚卸しする
最初にやるのは、HubSpotの設計ではありません。現在Airtableに入っているデータが、どのような構成になっているかを整理することです。
- どんなテーブルがあり、それぞれ何を管理しているか
- 1行が「何の単位」になっているか(1社なのか、1人なのか、1案件なのか)
- テーブル同士がどうリンクしているか
- 実際に使われている列と、作ったまま放置されている列はどれか
Airtableは自由に作れる分、担当者ごとに作り方が違うことがよくあります。同じ「顧客」テーブルでも、ある行は会社単位、ある行は担当者単位で入っている、という状態も珍しくありません。まずこれを明らかにします。
手順2:HubSpotのオブジェクトに対応づける
棚卸しができたら、各テーブル・各列を、HubSpotのどのオブジェクトのどのプロパティに入れるかを決めます。
1つのテーブルが1つのオブジェクトにきれいに対応するとは限りません。1つのテーブルを、会社・コンタクト・取引の3つに分解するケースが多く出てきます。逆に、複数のテーブルを1つのオブジェクトにまとめることもあります。
手順3:データを整形する
対応づけが決まったら、HubSpotに合わせてデータを整形します。表記ゆれの統一、選択肢の値の揃え込み、会社と人の分離、関連付けのためのキーの付与。ここまで済んで、初めて取り込める状態になります。
移行という観点では、まずここをしっかり考えることです。 取り込み作業そのものより、この整理のほうが時間がかかります。
この「1枚の表を会社・人・案件に分解する」という問題は、Excelからの移行とまったく同じ構造です。ExcelからHubSpotへ移行|最初に詰まる設計とKPIでも同じ難所を書いています。Airtableはリンク機能がある分、Excelより整理の手がかりが多い、という違いがあるだけです。
3. 実際の事例:移すもの・残すものから決めた60日間
筆者が支援した企業では、ヘルスケア領域のスタートアップ(従業員20名以下)が、営業・カスタマーサクセス・請求管理までをAirtableで運用していました。マーケティングはHubSpot、営業以降はAirtableとデータが分断され、顧客の全体像を一箇所で見られない状態でした。
このプロジェクトでは、最初に**「何を移し、何を残すか」**を決めました。顧客との関係を管理する業務はHubSpotへ、それ以外の業務はAirtableに残す、という切り分けです。そのうえで、Airtableのデータを会社・コンタクト・取引に対応づけ、HubSpotの構成に合わせた整形を設計しました。整形作業はAIとHubSpot APIを組み合わせて効率化しています。
結果として、60日間でSales Hub・Service Hubの同時導入を完了し、リード獲得から契約後のサポートまでを一気通貫で見られる状態になりました。
→ AirtableからHubSpotへ――60日で顧客管理を一元化
移行の方法(CSV・アプリ連携・API)の選び方と、自力でやれる範囲の線引きは、HubSpotへのデータ移行|3つの方法と自力でやれる範囲にまとめています。
4. 移行すべきケース
次のどれかに当てはまるなら、HubSpotへの移行を検討する価値があります。
- 営業・マーケティング・サポートでデータが分断している:マーケはHubSpot、営業はAirtable、のように分かれ、分析のたびに手作業で統合している
- メールや商談の履歴を自動で残したい:Airtableでは手入力に頼っている活動記録を、自動で蓄積したい
- パイプラインで案件の進捗を管理したい:ステージごとの件数や金額、転換率を追いたい
- 担当者ごとに作り方がバラバラになってきた:自由度の高さが、そのまま管理の難しさになっている
特に最後の点は、組織が大きくなるほど効いてきます。自由に作れることは、統制が効かないことの裏返しです。
5. 見送るべきケース:Airtableのままでいい会社
正直に書きます。Airtableのままでいい会社もあります。
Airtableの主用途が顧客管理ではない
Airtableを、コンテンツカレンダー、在庫管理、プロジェクト管理などの汎用データベースとして使っている場合です。これらはCRMの領域ではありません。HubSpotに移しても得るものは少なく、Airtableの柔軟さを失うだけです。
CRMとしての機能を必要としていない
営業プロセスがまだ定型化しておらず、活動履歴の自動記録、メール連携、パイプライン管理といったCRMの機能を必要としていない場合も、急いで移す必要はありません。
部分的に切り出すという選択
そして、全部を移すか、全部を残すかの二択ではありません。Airtableはそのまま残し、営業・サポート領域だけをHubSpotに切り出す判断も成立します。上の事例でも、請求管理などの業務はAirtableに残しています。
判断の軸は、顧客との関係を管理する業務かどうかです。そこだけをHubSpotに移せば、Airtableの強みも残せます。
よくある質問(FAQ)
Q. AirtableのデータはHubSpotに移行できますか?
A. 移行できます。ただし、そのままでは入りません。Airtableはオブジェクト構成になっていないため、まず現在のデータ構成を整理し、HubSpotのコンタクト・会社・取引・チケットに合わせて整形する必要があります。この整理が移行作業の中心です。
Q. Airtableの構造はどうやって整理すればいいですか?
A. 3つの手順で進めます。まずAirtableの各テーブルが「1行=何の単位か」を棚卸しし、次にHubSpotのどのオブジェクト・プロパティに対応づけるかを決め、最後に表記ゆれや会社と人の分離などの整形を行います。1つのテーブルを複数のオブジェクトに分解するケースが多く出てきます。
Q. AirtableからHubSpotへの移行にはどれくらいかかりますか?
A. 筆者が支援した企業では、Sales Hub・Service Hubの同時導入まで含めて60日間で完了しています。期間を左右するのはデータ量より、Airtableの構造がどれだけ整理されているかと、何を移して何を残すかの判断です。
Q. Airtableのままでいい会社はありますか?
A. あります。Airtableを顧客管理ではなく、コンテンツカレンダーや在庫・プロジェクト管理などの汎用データベースとして使っている会社、営業プロセスが定型化しておらずCRMの機能を必要としていない会社です。Airtableを残して営業・サポートだけHubSpotに切り出す判断も成立します。
まとめ:構造を整理できるかどうか
判断軸は1行です。Airtableの自由な構造を、HubSpotのオブジェクトに整理し直せるかどうか。
移行の成否は、取り込み作業ではなく、その前の整理で決まります。そして、全部を移す必要はありません。顧客との関係を管理する業務だけを切り出す判断も、立派な移行設計です。
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HubSpot Japan CSMとして200社以上を支援した経験を持つ代表が、初回のご相談から導入・定着まで一貫して担当する体制で、現在のAirtableの構成に照らした移行範囲と整理の手順を一緒に設計します。
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