CSMやCSMマネージャーから、こういう相談を受けます。
「CSにもアップセルの目標がついた。でも、どうやって機会を見つければいいのか分からない」
利用状況のレポートを見て、上限に近いお客様をリストアップする。そこに順番に提案の連絡を入れる。ところが反応は薄く、中には「売り込みの連絡が増えた」と関係がぎくしゃくするお客様も出てくる。
筆者はHubSpot JapanのCSMとして200社以上を支援してきました。この記事では、アップセルのサインがCRMのどこに出るか、そしてこの記事の核である会話からアップセルの機会を見つける方法と、営業への渡し方を書きます。
1. CRM上のサイン:上限への接近と、上位機能の使い込み
まず、CRM上で確認できるアップセルのサインです。
利用上限に近づいている
機能に利用上限がある場合、そこに近づいている数値は分かりやすいサインです。 登録できる件数、ユーザー数、送信数など、プランごとに上限が決まっている項目の利用率が上がっていれば、上位プランや追加枠の検討につながります。
上位機能を積極的に使い込んでいる
もう1つは、日常的に上位機能を積極的に使い込んでいるお客様です。製品を深く使いこなしているお客様は、さらに上の機能で解決できる課題に行き当たりやすく、チャンスがあります。
利用状況をどう指標にするかは、ヘルススコアの設計|利用状況が効く理由と外れるケースにまとめています。ヘルススコアで使う利用状況のデータは、そのままアップセルのサインを探す材料にもなります。
2. それ以上に有効なもの:会話からビジネスの動向を探る
ここが、この記事で最も伝えたいことです。
CRM上のサインは分かりやすい。しかし、それ以上に有効なものがあります。顧客との会話から、ビジネスの動向を探ることです。
- 新規投資の予定
- 採用情報や、人員追加の時期
- 目指しているビジョン
こうした話の中に、アップセルの機会が多くあります。
たとえば、「来期は営業を5名増やす予定です」という話が出れば、ユーザー数の追加が必要になるタイミングが分かります。「来年はカスタマーサポートを強化したい」というビジョンが出れば、サポート向けの機能が役に立つ場面が見えます。「新しい事業部を立ち上げる」という投資の話が出れば、その事業部でも同じ製品が使える可能性があります。
なぜ会話の方が効くのか
利用状況のデータが示すのは、過去から今までの使い方です。一方、会話から分かるのは、お客様がこれから何をしようとしているかです。
アップセルが成立するのは、お客様がこれから投資する理由があるときです。上限に近いという事実だけでは、お客様に追加投資する理由があるかどうかは分かりません。投資の予定、人員の増加、目指している姿。これを知っているCSMだけが、「今なら提案が受け入れられる」というタイミングを判断できます。
会話で聞いたことはCRMに残す
会話で聞いたビジネスの動向は、CRMに記録しておきます。 採用予定の時期、新規投資の計画、来期の方針。ミーティングのメモとして残しておけば、担当CSMが変わっても、営業に引き渡すときにも、同じ情報をもとに動けます。
3. 関係を壊さない進め方:提案するのではなく、ヒアリングから入る
CSMがアップセルに取り組むときに、最も注意すべきことがあります。
CSMが無理にアップセルの話をすると、関係性を損ねます。
CSMは、お客様にとって「製品をうまく使えるように支援してくれる人」です。その人が急に売り込みを始めれば、お客様は「結局、売りたいだけなのか」と感じます。一度そう思われると、本音の相談が来なくなります。本音の相談が来なくなれば、会話からビジネスの動向を探ることもできなくなります。
ヒアリングを通じて、メリットがあると判断できたときに提示する
基本は、積極的に提案するのではなく、ヒアリングを通じて、顧客にとってメリットがあると判断できたタイミングで提示することです。
会話の中でお客様の課題や計画を聞き、「それなら、この機能を使えば解決できます」と言える状態になってから、初めて話を出す。お客様にとっては、自分の課題に対する解決策の提示です。売り込みではありません。
この順番で進めれば、顧客側にも興味を持って受け入れてもらいやすくなります。 お客様が自分で話した課題に対する提案なので、聞く理由があるからです。
4. 営業への引き渡し:確認を取ってからパスする
お客様が興味を持ってくれたら、次は営業への引き渡しです。
「営業担当から一度お話しさせていただいてもよろしいですか」
興味を持ってもらえた時点で、「営業担当から一度お話しさせていただいてもよろしいですか」と確認を取ってから、営業にパスします。
確認を取らずに営業から突然連絡が行けば、お客様は驚きます。CSMとの会話の中で出した話が、いきなり商談になったと感じれば、CSMへの信頼も損なわれます。確認を取ることで、お客様にとっては「自分が了承した次のステップ」になります。
価格や導入時期の話はケースバイケース
引き渡しの前に、CSMがどこまで話しておくかはケースバイケースです。
- 価格感や導入時期について問題がなさそうなら、CSMから事前に伝えておくこともある
- 営業にそのまま委ねることもある
お客様との関係性や、CSMが把握している情報の確かさで判断します。いずれにしても、CSMが聞いたお客様の状況は、営業に漏れなく伝えます。同じことをお客様に二度聞かせないためです。
部門間の引き渡しをどう設計するかは、インサイドセールスと外勤の分業|CRMで揉めない設計にまとめています。インサイドセールスから営業への引き渡しと、CSMから営業への引き渡しは、考え方が共通しています。
5. 実際の事例
筆者がHubSpot Japan在籍時に支援した大手SaaSコンサルティング会社(約800名)では、契約していたHubSpotが担当者の退職で放置され、データすら入っていない状態でした。月1回・約1年半の伴走で、HubSpotの利用スコアを10から70に引き上げています。
この支援では、フルポテンシャルのうち70%を活用し、残り30%はあえて使わないという判断もしました。お客様の業務と計画を聞いたうえで、使うべき機能と使わない機能を分ける。機能を増やす提案は、お客様にとってのメリットが判断できたときに出すものです。
→ 放置されたHubSpotを再生――利用スコアを10→70へ
6. やりすぎると壊れるケース:数値だけを見て、会話なしに提案する
アップセルを仕組み化しようとして、利用状況の数値だけを見て、会話なしに提案すると壊れます。
数値上は上限に近い。だから提案する。一見、合理的に見えます。しかし、顧客側に投資の予定がなければ、押し売りになります。 上限に近いのが一時的な利用の増加なのか。お客様は不要なデータを整理して上限内に収めるつもりなのか。予算の計画がすでに固まっていて、今期は追加投資ができないのか。
こうした事情は、数値からは分かりません。会話をしなければ分かりません。数値はきっかけとして使い、提案するかどうかは会話で判断してください。スコアや数値を会話のきっかけとして使う考え方は、解約予兆はCRMのどこに出るか|見つけた後にやることとも共通しています。
7. やるべきケース・やりすぎると壊れるケース
会話起点のアップセルをやるべきケース
- CSにアップセルの目標がついたが、機会の見つけ方が決まっていない
- CSMがお客様の投資計画や採用予定を把握していない
- CSMから営業への引き渡しのルールがない
やりすぎると壊れるケース
- 利用状況のレポートだけを見て、上限に近い順に提案している
- お客様の了承を取らずに、営業から連絡させている
- CSMが定例ミーティングのたびに提案の話を出している
よくある質問(FAQ)
Q. アップセルのサインはどこに出ますか?
A. CRM上では、機能の利用上限に近づいている数値や、上位機能を日常的に積極的に使い込んでいる状態に出ます。ただし、それ以上に有効なのは顧客との会話です。新規投資の予定、採用情報や人員追加の時期、目指しているビジョンといった話の中に、アップセルの機会が多くあります。
Q. CSMがアップセルを提案してもいいのですか?
A. 提案して構いません。ただし、無理にアップセルの話をすると関係性を損ねます。基本は積極的に提案するのではなく、ヒアリングを通じて顧客にとってメリットがあると判断できたタイミングで提示します。この順番なら、顧客側にも興味を持って受け入れてもらいやすくなります。
Q. CSMから営業には、いつ引き渡すべきですか?
A. お客様が興味を持ってくれた時点です。そのとき「営業担当から一度お話しさせていただいてもよろしいですか」と確認を取ってからパスします。確認を取らずに営業から連絡させると、お客様を驚かせ、CSMへの信頼も損ないます。
Q. 価格の話はCSMがしてもいいですか?
A. ケースバイケースです。価格感や導入時期について問題がなさそうならCSMから事前に伝えておくこともあれば、営業にそのまま委ねることもあります。いずれの場合も、CSMが聞いたお客様の状況は営業に漏れなく伝えてください。
まとめ:数値はきっかけ、判断は会話で
判断軸は1行です。アップセルは数値で気づき、会話で投資の予定を確かめ、了承を取ってから営業に渡すこと。
利用状況のデータは過去を示し、会話はお客様のこれからを示します。アップセルが成立するのは、お客様にこれから投資する理由があるときです。CSMが信頼される支援者であり続けることが、結果として最も多くのアップセルを生みます。
CSと営業の連携でお困りなら
「CSMのアップセルの進め方を決めたい」「CSから営業への引き渡しを設計したい」——判断に迷う場合は、Harekaにご相談ください。
HubSpot JapanのCSMとして200社以上を支援した代表が、初回のご相談から定着まで一貫して担当する体制で、CSと営業が同じデータで動く仕組みを一緒に作ります。
既に入っているHubSpotを活かしたい場合は、HubSpot再活用・定着支援もご覧ください。お問い合わせはこちらからお気軽にどうぞ。