経営者や事業責任者から、こういう相談を受けます。
「CRMにダッシュボードはあるけれど、経営として見たい数字がどこにあるのか分からない」
営業部門が作ったダッシュボードを開くと、担当者別のコール数、ステージ別の案件数、今週のミーティング数が並んでいる。どれも正しい数字です。しかし経営者が知りたいのは「今期、目標に届くのか」です。その答えを探して画面を行き来するうちに、結局、営業責任者に口頭で聞くようになる。ダッシュボードは開かれなくなります。
筆者はHubSpot JapanのCSMとして200社以上を支援してきました。この記事では、経営者がダッシュボードで見るべき数字と、マネージャーが見る数字との違い、そして経営者がダッシュボードを見なくなる原因を書きます。
1. 基本:マネージャーの4つの数字は把握しておく
まず前提です。営業マネージャーが毎週見ている主要な数字は、4つあります。
- 目標との差分
- コンバージョンレート
- 商談数
- アクション数
詳しくは営業マネージャーが毎週見る数字|4つで足りる理由にまとめています。
経営者も、この4つは把握しておくべきです。 目標との差分がどこから生まれているのかを理解するには、コンバージョンレートや商談数の構造を知っている必要があるからです。
ただし、アクション数や商談数のレイヤーまでは、経営者が見なくてもよい。コール数が先週より減った、商談数がこの担当者だけ少ない。こうした数字に手を打つのは、マネージャーの仕事です。経営者がそこまで毎週見に行くと、マネージャーの役割と重なります。
2. 経営者の視点:売上目標から見る
ここが、この記事の核です。
経営者の視点は、マネージャーより広いところにあります。売上目標というところから見ます。 問いは3つです。
- 営業目標に対して、達するのか
- 達しないなら、なぜ達しないのか
- 他の月でカバーできるのか、できないのか
マネージャーが見ているのは、今週・今月の動きです。どの案件を押すか、誰の商談が足りないか。一方、経営者が見るのは、期全体の着地です。今月が足りなくても、来月以降に大きな案件が控えていてカバーできるなら、打ち手は変わります。カバーできないなら、採用や投資、目標そのものの判断が必要になります。
マネージャーとの違い
| 観点 | マネージャー | 経営者 |
|---|---|---|
| 時間軸 | 今週・今月 | 期全体、他の月でのカバー |
| 見る数字 | 4つの数字すべて(アクション数・商談数まで) | 目標との差分とその理由が中心 |
| 問い | どの案件を動かすか、誰の何が足りないか | 目標に達するか、なぜ達しないか、カバーできるか |
| 打ち手 | 案件へのアドバイス、行動量の調整 | 採用、投資、目標の判断 |
同じデータを見ていても、見る粒度と問いが違います。経営者のダッシュボードは、この問いに直接答えられる形で作ります。
着地の数字は、フォーキャストの精度で決まる
「目標に達するのか」に答えるには、見込みの数字が信用できる必要があります。見込みの精度は、SFAのクローズ予定日・確度・金額が最新であるかで決まります。フォーキャストの精度については、フォーキャストが外れる理由|精度を上げる3つの必須項目にまとめています。
3. 経営者がダッシュボードを見なくなる原因
経営者がダッシュボードを見なくなる原因は、突き詰めれば1つです。
経営者が欲しい数字が、ダッシュボードにない。
これが具体的にどういう状態かというと、次の3つに分かれます。
原因1:営業の管理用に作られていて、経営の問いに答えていない
ダッシュボードが営業の管理用に作られているケースです。担当者別の活動量、ステージ別の件数。営業マネージャーにとっては必要な数字ですが、経営が知りたい**「今期着地するか」「来期の見込み」に直接答えていません。** 経営者は、並んでいる数字から自分で着地を計算しなければならなくなります。
原因2:指標が多すぎて、探す手間になっている
指標が多すぎるケースです。レポートが数十個並んでいると、経営者は自分が見たい数字を探すところから始めなければなりません。忙しい経営者にとって、探す手間がかかるダッシュボードは開かれなくなります。
原因3:更新されていないデータが混ざり、信用できない
更新されていないデータが混ざっているケースです。SFAの入力が遅れていれば、ダッシュボードの数字は実態とずれます。一度「この数字は古い」と気づいた経営者は、その後ダッシュボードの数字を信用しなくなります。信用できない数字は見る意味がないので、口頭の報告に戻ります。
ダッシュボードやCRMそのものが使われなくなる流れは、HubSpotを導入したのに誰も使わなくなる理由と解決策にも書いています。
4. 実際の事例
筆者が支援した企業では、製造業向けソフトウェアのコンサルティング会社(従業員200名以上)が、Salesforce Service CloudからHubSpot Service Hubへ移行しました。60日間・全6回の支援の中で、テンプレートレポートの活用からカスタムレポートの作成方法までをレクチャーし、現状を数字で把握できる状態を作っています。
→ SalesforceからHubSpotへ――60日でライセンス費用50%削減
また、Excelで顧客・営業情報を管理していた投資ファンド(従業員約30名)では、毎回手作業で更新していたレポートが、60日間の支援でHubSpotのダッシュボードから常に最新の状態で確認できるようになりました。手作業のレポートは、作った時点から古くなります。同じデータから自動で最新の数字が出る状態が、経営が数字を信用するための前提です。
→ Excel管理からHubSpotへ――60日でAI連携まで【投資ファンド】
HubSpotでのレポートの作り方そのものは、HubSpotレポートの作り方|テンプレート→AI→カスタムの順にまとめています。
5. やりすぎると壊れるケース:経営者用のダッシュボードを別に作りすぎる
経営者が見なくなるなら、経営者専用のダッシュボードを作ればいい。ここまでは正しい判断です。しかし、経営者用にダッシュボードを別に作りすぎると壊れます。
経営者用に独自の集計ロジックや独自のレポートを増やしていくと、営業とCSMが見ている数字と、経営が見ている数字がずれます。 経営会議では「今期の見込みは○億円」と報告されているのに、営業のダッシュボードでは別の数字が出ている。どちらが正しいのかの議論から会議が始まる。これでは、数字で意思決定するためのダッシュボードが、かえって混乱の原因になります。
対処は明確です。同じデータソースから、粒度だけ変える。
営業マネージャーは担当者別・案件別の粒度で見る。経営者は期全体・月別の粒度で見る。元になっているデータは同じです。粒度を変えて集計しているだけなので、数字はずれません。経営者が「なぜ達しないのか」を知りたくなったときには、同じデータを一段細かい粒度に下ろせば、マネージャーが見ている数字にそのままつながります。
6. やるべきケース・やりすぎると壊れるケース
経営者の視点でダッシュボードを見直すべきケース
- 経営者がダッシュボードを開かず、営業責任者に口頭で着地を聞いている
- ダッシュボードに、今期の着地や来期の見込みが直接出ていない
- ダッシュボードの数字が古く、経営が信用していない
やりすぎると壊れるケース
- 経営者用に、独自の集計ロジックのレポートを増やしている
- 経営会議の数字と、営業のダッシュボードの数字が一致しない
- 経営者がアクション数や商談数まで毎週追いかけ、マネージャーの役割と重なっている
よくある質問(FAQ)
Q. 経営者は毎月、ダッシュボードで何を見るべきですか?
A. 売上目標に対して達するのか、なぜ達しないのか、他の月でカバーできるのかできないのか、の3つに答える数字です。マネージャーが見ている4つの数字(目標との差分、コンバージョンレート、商談数、アクション数)は把握しておくべきですが、アクション数や商談数のレイヤーまでは見なくてもよいです。
Q. 経営者が見る数字は、マネージャーが見る数字と何が違いますか?
A. 見る粒度と問いが違います。マネージャーは今週・今月の案件と行動量を見て、どの案件を動かすかを判断します。経営者は期全体の売上目標から見て、着地するか、他の月でカバーできるかを判断します。元になるデータは同じです。
Q. 経営者がダッシュボードを見なくなるのはなぜですか?
A. 経営者が欲しい数字がダッシュボードにないからです。営業の管理用に作られていて「今期着地するか」「来期の見込み」に直接答えていない、指標が多すぎて探す手間になっている、更新されていないデータが混ざって数字を信用できない、の3つが典型です。
Q. 経営者用のダッシュボードは別に作るべきですか?
A. 見る画面を分けるのは構いませんが、集計の元は分けません。経営者用に独自のレポートを作りすぎると、営業とCSMが見ている数字と経営が見ている数字がずれます。同じデータソースから、粒度だけ変えて作ってください。
まとめ:同じデータを、経営の粒度で見る
判断軸は1行です。経営者のダッシュボードは、同じデータソースから「目標に達するか・なぜか・カバーできるか」に答える粒度で作ること。
経営者が見なくなるのは、欲しい数字がないからです。営業管理用のダッシュボードをそのまま見せるのでも、別の数字を作るのでもなく、同じデータを経営の問いに合わせた粒度で見せる。そうすれば、経営とマネージャーと現場が、同じ数字で話せます。
経営ダッシュボードの設計でお困りなら
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HubSpot JapanのCSMとして200社以上を支援した代表が、初回のご相談から定着まで一貫して担当する体制で、経営から現場まで同じデータで話せるダッシュボードを一緒に設計します。
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